市民の力で生まれた、自然の中で思い切り遊べるビオトープ
宅地と田園が続く平野の一画に残った、こんもり緑の鎮守の森と、その周りを囲んで広がる水辺の風景。『岩倉市自然生態園』は1周300mほどの小さな公園ですが、虫たちが暮らし、めだかが生息する、数十年前の日本の里の自然が今も生き続けています。
いかにも昔懐かしい風景ですが、実は人工的に作られた公園。1990年代に市が休耕田の土地改良事業を行ったとき、地元住民も交えて議論を重ねる中で、鎮守の森を含めたこの地に残っている豊かな自然を守りたい、という想いから生まれました。開園以来20年以上、説明員として活躍する三輪千秋さんも当時、市内のさまざまな身近な自然を見て歩いた市民の一人です。
「ベッドタウン化で自然は減っていき、市のシンボルでもある五条川には自然が残っているものの、『危険なのでよい子は遊んではいけません』と看板が立っています。それで『せっかく公園を整備するなら、子供たちが自然の中で思い切り遊べるような場所を作ろうじゃないか』ということになったんです」
整備作業は市民ボランティアを中心に、専門家の指導を受けながら池を掘り、手作業で水草を植えるところからのスタートでした。底冷えのする2月、池に張った氷を割ってヨシやマコモを植えた日もあったとか。植える草木は、地域の生態系の中にもともとあったもの。野鳥がよく訪れるよう、実のなる木もたくさん植えました。こうした市民の奮闘によって、身近な動植物がいきいきと暮らす、小さなビオトープが生まれたのです。
現在、週末や夏休みともなれば、ザリガニ釣りや虫取りを楽しみに市外からも多くの親子連れが訪れます。ときには、園内で捕まえたカエルをジャンプさせ、その距離を競うなど、自然の中で遊ぶイベントも開催。すべて無料で楽しめるうえ、日中は併設のワークハウスに三輪さんたち説明員が常駐し、園内の生き物について教えてくれるのも魅力です。
エノキの木からはたくさんのチョウの仲間が生まれて飛び立つこと、ツルウメモドキやサメカズラの若木は、小鳥が落としたフンから芽吹いたこと……見て、触れて学びながら、探検気分で遊ぶ時間は、子供にとっては大切なふるさとの記憶となり、大人にとっては、童心に返れる貴重なひとときとなるでしょう。